強度行動障害のある方の支援者に対する研修 用語集

 

強度行動障害のある方の支援者に対する研修 実践報告会 用語集

  

 

【記録】

困ったなと思ったらまずすること。毎日の日誌は、情報量が多いという良さはあるが、分析しにくい。行動問題の記録は、視点をしぼり、誰がつけても同じで、記入しながら傾向がよみとれるものを使う。期間を決めてはじめる。○×や正の字など使いやすさを追求する。記録は支援統一を高める役割もある。支援の統一を面と向かって言いにくいときは、記録をつけることをお願いしてみてもよい。記録はやる気アップにもつながる。傾向が一目瞭然でわかるものなら効果的である。

今回はアセスメントとしても使い勝手が良い【スキャッタープロット】と【ABC記録】を主に使った。

 

【スキャッタープロット】

記録する行動を具体的に決める。その行動が起きたら、その時間の枠に✔を書く。

行動問題が起きやすい時間や場面がわかる。同時に、起きにくい時間や場面もわかる。絞り込む前にざっくり記録をとって検討しようという時に使ってみるとよい。

 

【ABC記録】 【ABC分析/機能分析】

Aきっかけ-B行動-C結果の3つの視点で記録をとる。この記録で大切なことは、Bは利用者さんの行動であること。ここに支援者が推測した利用者さんの気持ちや自分の思いを記入してはいけない。Aのきっかけは行動の前に起きたことや周囲の関わりを書く、Cの結果は行動の後に起きたことを書く。

 

【その他の記録】

睡眠、排せつ、食事など生活の基盤となることは、直接行動問題と関係なくても日々おさえたい情報である。睡眠、食事、運動量などが改善されると、直接関係のない行動問題が減少することを示した事例も多い。

曰く言い難い機嫌の良し悪しや興奮の度合いなど「印象」の記録も、長期にわたって記録をとってみると傾向がみえることがある。

 

【アセスメント】

アセスメントはひとつひとつの事実(エピソード)を、分類や統合することで解釈し、問題の成り立ちやからくり(メカニズム)を記述すること。その記述から、問題を解決するために、支援課題や方針を抽出すること。

アセスメントには【利用者さんはどんな人で、どんな支援をしたら良いのだろうということを知る】ものと【行動問題のからくりを知る】ものの2つがある。

 

【利用者さんはどんな人で、どんな支援をしたら良いのだろうということを知る】アセスメント

成育歴や好み、人となりは基本情報である。保護者からの聞き取りが、突破口となることもある。その他に、認知や発達レベル(どんなことができて、どんなことができないのか)、障害の特性、適応レベルの3つの視点がある。

【TTAP】やPEPは、この3つの観点から総合的に評価できる自閉症の方専用の検査である。しかも「どんな材料や関わりなら、適応行動がでやすいか」という環境との相互作用の観点を明確に出している点がすばらしい。適応行動がでやすい環境を探るという観点は、日々の行動観察においても非常に重要である。

 

【行動問題のからくりを知る】アセスメント

行動問題が起きた時に、「どう対応するか」を考える前に、「なぜ利用者さんは、そうせざるを得ないのか」を考える。「どうする」ばかりに気をとられると、根拠のうすい支援となってしまう。「なぜ」に迫る方法として【氷山モデル】と【ABC分析/機能分析】の2つがある。

 

【氷山モデル】

氷山モデルとは、障害がある人の課題となっている行動を氷山の一角として捉え、海上に見える氷山の一角に注目するのではなく、その水面下の要因に着目して支援の方法を考えることを意味する。

 

【ABC分析/機能分析】

どんな状況のときに(A)、どんな行動(B)をしたら、どんな結果(C)になったのかという視点で行動問題を分析すること。その行動によって、ある状況が、違う状況に変化していることから、行動の機能(目的や理由)を推測できる。実際に起きたことを、3つの空欄に、単純にそのまま書きいれることから始めてほしい。行動の結果として、実にさまざまなことが起きていることに気がつくはずである。

 

【行動問題の4つの機能】

ABC分析からわかる行動の4つの機能。

【MAS行動問題の動機づけ尺度】

行動の動機(目的)を調べるための簡易の評価用紙。

 

【ストラテジーシート】

井上雅彦先生(鳥取大学大学院医学系研究科)が作成されたシート。ABC分析のそれぞれの枠を、強みを活かした支援へと読みかえる。Bに利用者さんにとってやりやすい望ましい行動を入れる。望ましい行動Bがでやすい環境をAとCに入れる。

【支援の4つの方向性】

アセスメントに基づいて、支援の方向性を考える。大きく4つの方向性がある。適応(望ましい)行動で過ごせるようにするための「適応行動の支援」、利用者さんと支援者との間のコミュニケーションを否定的なものでなく肯定的なものにかえる「肯定的コミュニケーションの支援」、行動を「予防する支援」である。

「適応行動の支援」は、問題が起きている場面を取り上げる(下図①)か、起きていない場面を取り上げる(下図②)かの2つがある。作業のときに材料を壊してしまうという課題があった場合、作業の場面で利用者さんができることを活かして過ごせるように環境を整えるのが①で、作業以外の適切に過ごせる時間をさらに充実させていくのが②である。いずれも利用者さんの強みを活かし、生活が充実することで、相対的に行動問題の軽減をはかる。氷山モデルのアセスメント結果を活かす支援である。

「肯定的なコミュニケーションの支援」は、利用者さんの目的や願い、そうせざるを得ない理由を理解したうえで、行動だけを置き換える(下図③)。ABC分析のアセスメント結果を活かす支援である。例えば、ゴミ箱の中に少しでもゴミがあると回収したいという方には、ゴミ収集の時間を生活のスケジュールに組み込む、あるいはゴミ箱から持ってきたゴミを、所定の場所に集めるようにする。こうすることで「ゴミを取らないで」という禁止のコミュニケーションから、「ゴミ収集ありがとう。助かったよ」という肯定的なコミュニケーションへと変えることができる。

④の予防的対応については、入所支援においてはやりすぎないように注意が必要である。きっかけをなくそうとして、活動量が減り、周囲との関わりが減り、当たり前の生活という基盤が崩れてしまうことがある。

 

【まだまし/ぎりぎりセーフ】

手詰まりと思ったときの視点の切り替えかた。「まだまし」は村本浄司先生(東京福祉大学社会福祉学科)提唱。4つの方向性の③で「まだましな行動を探してみる」ことで道がひらけるときがある。「ぎりぎりセーフ」は辻井正次先生(中京大学現代社会学部)提唱。①②で「ぎりぎりセーフを探してみる」ことで道がひらけるときがある。全てではないが、ここならできている、この人とならできている、ここまではできているは、「ぎりぎりセーフ」である。できないことや行動問題に目を向けるのではなく、できていることを出発点にする。

 

【PDCAサイクル】

Plan(計画)→ Do(実行)→ Check(評価)→ ActもしくはAction(改善)の 4 段階を繰り返すことによって、支援を継続的に改善する。

Plan(計画):これまでの経過やアセスメントなどをもとにして支援計画、支援手順書、記録を作成する。Do(実行):計画に沿って支援を行う。実施結果の記録をつける。Check(評価):支援の実施が計画に沿っているかどうか、実施した成果を記録に基づいて評価する。ActもしくはAction(改善):支援が計画に沿っていない部分や成果が出ていない部分を調べて改善をする。

 

【手順書】

支援者が使う支援手順書と利用者さんが使う手順書のどちらも「手順書」と呼ばれることがあるので注意。

 

【トークン・エコノミー・システム】

小さな目標をこつこつと達成していくことで、大きな目標へとたどりつく。動機づけを高める支援技法。お店のポイントカードもそのひとつ。どこで買っても同じ商品でも、ポイントがつくとなるとついついその店で買ってしまう。

【自立課題】

障害のある人が最初から終わりまで、可能な限り自分一人で完了できるように設計された課題のこと。知的障害が重度な人にとって、他者からの介助や見守りなしで、一人で完結できる活動は非常に重要である。自尊心をはぐくむ大切な活動であり、そして精神の安定をもたらす効果がある。障害のある人一人ひとりの能力や特性をしっかりとアセスメントしなくては、適切な自立課題は作れない。(「あきらめない支援―行動問題をかかえる利用者に対する入所支援における実践事例集―」独立行政法人国立重度知的障害者総合施設のぞみの園より抜粋)

 

【特性を考慮した余暇の過ごし方】

行動問題が起きやすい時間帯として、早起きの早朝(朝食前)と夕方の自由時間(夕食前)が多い。例えばその理由が「待つことが苦手で、見通しがあれば30分程度待てるが、60分は待てないため」だったとする。食事までの待ち時間が60分間ならば、その中間に10分間でも何か目的をもって活動する時間があれば、待ち時間は25分間に減らす(分断する)ことができる。この10分間の活動は、家事(お手伝い)や余暇などが考えられる。好みの活動の幅が狭い時に、力を発揮するのが自立課題というアイディアである。作業や課題ではなく「すっきり、気持ちよく、こだわれるもの」「気持ちよく切り替えるために儀式としてやるもの」「支援者とわかりやすくやりとりするためのツール」という、利用者さんの特性を活かした楽しみの活動(余暇)として、自立課題の可能性を探ってみてほしい。解体して、また作ってを繰り返すためだけの自立課題ではなく、「特性に配慮した余暇や楽しみな活動」に近づけてほしい。

 

【マッチング】

刺激と刺激を合わせること。自閉症のある人に得意な方が多い。同じもの同士を合わせたり(同一見本合わせ)、形が違っても意味が同じものを合わせたり(恣意的見本合わせ)、バリエーションは多数である。課題や作業だけでなく、生活の中の手がかりとしても利用できる。

 

【強化】

ある状況やきっかけ(A)で、ある行動(B)をして、好ましい結果(C)が得られる、もしくは嫌なことがなくなると、将来その行動(B)は起きやすくなる。例えば、騒々しい場所が苦手な方が、たくさん人が集まる特定の行事の最中(A)に、大きな声をあげたら(B)、職員が来て静かな場所に移動する(C)ことができた。その後、その行事のたびに大きな声をあげて興奮するようになった。行事と大きな声や興奮の関係が、静かな場所への移動という支援者の対応によって結びつきが強められた。この「状況-行動-結果」の関係を「強化」と呼ぶ。このような対応を繰り返すと、この後、さらに特定の行事だけでなく、人が集まる場所や騒々しい場面でパニックが起きやすくなることが予想される。

支援においては、例にあげたような行動問題を解釈するためだけに使うものではない。むしろ、望ましい行動や適応行動と、生活場面をいかに結びつけるかが重要なテーマである。

 

 

【コミュニケーションサンプル】

コミュニケーション支援をスタートするときに、身振り、指さし、体に触れる、話し言葉など、実際に利用者さんが示している様々なコミュニケーション行動を、機能で分類する。目的は、最も頻繁にでてくるコミュニケーション(実用的で好みのコミュニケーションスタイル)を探すためである。分類は、場面(文脈)、形態(様式)、内容(機能)の3つ。内容(機能)は、要求、注意喚起、拒否、情報請求などがある。3つの観点のうち、ひとつずつ変化させる。例えば「材料がなくなると職員に空容器を渡してくれる」は「作業場面/空容器を渡す/要求」である。これが頻繁ならば、空の容器を別の形態に変えたり、食事の場面でのおかわりをお椀を渡して表現する、など好みのコミュニケーションスタイルを活かして、表現を広げていくことができる。

 

【CASアセスメント】

TTAPの直接観察は検査用具も項目も多く導入が難しかったため、オリジナルで作成した。「現場でよくみる自立課題」「マッチング」「具体物ワークシステムとトークン・エコノミーシステム」を実際にやってみてもらう。多くの利用者さんが、自立課題を目の前にすると、課題の意図を即座に理解し、抵抗なく取り組み始めることに驚く。作業、操作、認知(マッチング)といった基本のスキルを観察する。

 

【課題分析】

着替え、作業、買い物など、ひとまとまりの活動を、細かい行動の連鎖にわけること。着替えが「できる、できない」ではなく、着替えの中のどこができて、どこができないのかを細かく分析する。活用方法としては、手順書の作成、行動の形成(行動連鎖法/バックワードチェイニング)、記録用紙の作成など幅広い。

 

【環境と個人の相互作用のアセスメント】

福祉分野での一般的なスキルのアセスメントは、どんな環境下なのかは問わない。スキルを「ひとりでできる」「ひとりでできない」で評価する。

環境と個人の相互作用のアセスメントは、どんな環境・状況・場面に、適応できているのか、できていないのか。スキルの評価は「ひとりでできる」「どんな支援(環境)があればひとりでできる」「支援があってもできない(身体機能的にできない、能力的にできない、支援拒否など)」の3つの視点から行う。知りたいのは、どんな環境や支援があればできそうかである。TEACCHのめばえ反応、発達心理なら最近接領域の考え方である。

 

【プロンプト】

援助なしでは利用者さんが行動しにくいときに、行動が出やすいように手助けしたり、ヒントを出すこと。聴覚的プロンプト(主に声かけ)、視覚的プロンプト、身体的プロンプトなどがある。やり方などの見本を見せることをモデリングという。強い声かけを多用すると、プロンプト依存=指示待ちになりやすい。自発性を損なう支援なので要注意。

 

【TTAP】(*)

TTAPとは、TEACCH Transition Assessment Profileの略で、〖自閉症スペクトラムの移行アセスメントプロフィール〗と訳される。

フォーマルアセスメント、インフォーマルアセスメントとあり、フォーマルアセスメントでは、3つの尺度(直接・家庭・事業所)及び6つの領域(職業スキル・職業行動・自立スキル・余暇スキル・機能的コミュニケーション・対人行動)から構成され、全検査項目は216項目である。インフォーマルアセスメントでは、各アセスメントシートが用意され、PDCAサイクルを回す際の手立てとして有効である。

 

【感覚プロファイル】

SP感覚プロファイルは、3歳〜82歳を対象に、感覚の過敏さや過鈍さといった問題について、複数の感覚領域にわたり包括的に把握する検査である。質問は感覚処理(聴覚、視覚、前庭覚、触覚、複合感覚、口腔感覚)、調整、行動や情動反応の大きく3つに分けられ、その行動が見られる頻度を保護者(観察者)が回答し、検査者がスコアを集計する。

 

作成 令和5年2月 千葉県発達障害者支援センター